LAB/RESEARCH/ARENA
決算クラブ経営アリーナ入場料収入2026.10.19

新しいアリーナが開いた季、入場料はきれいに2倍になった

6つの開業を、同じ季のリーグ中央値と比べる

約11分で読了
SUMMARYこの記事のポイント
  • 01沖縄・太田・佐賀・船橋・長崎・名古屋・お台場の7つの開業を、開業前の季を100として並べた
  • 025クラブが開業季に入場料収入を2.29〜2.85倍にした。ばらつきが小さく、ほぼ揃っている
  • 03同じ季のリーグ中央値は1.25〜1.44倍。差し引くと1.59〜2.09倍が開業で説明できる分になる
  • 04営業収入でも1.5〜1.8倍。入場料だけでなく、アリーナ事業の収入が「その他」に入ってくる
  • 05⚠️ 名古屋ダイヤモンドドルフィンズだけ1.05倍で、リーグ中央値を下回った。ただし平均入場者数は5,353名から10,281名へ92.1%増えている
  • 06⚠️ 名古屋Dは3月決算で、リーグも「決算期間がシーズンと同じでないクラブ」に挙げている。IGアリーナの開業は2025年7月で、決算に全部は入っていない可能性が高い

「夢のアリーナ」という言い方を、リーグ自身が決算の資料で使っている。 効いたのは確かだ。ただ、どれくらい効いたのかは、まだ誰も数字にしていない。

2021年以降に新しいアリーナへ移った7クラブを並べた。6クラブが、開業した季に入場料収入を1.81倍から2.85倍にしている。揃いすぎていて、最初は計算を疑った。

そしてもう1つ分かった。アリーナを自分の法人で運営しているかどうかで、 決算に現れる額が桁で変わる。

7つの開業を、同じ物差しに乗せる

扱うのはこの7つ。開業の時期も運営主体も、一次情報で確かめている。はじめてフルシーズン使った季を「開業季」として、その前の季と比べる。

琉球沖縄アリーナ2021年04月開業10,000席
群馬オープンハウスアリーナ太田2023年04月開業5,027席
佐賀SAGAアリーナ2023年05月開業8,610席
千葉JLaLa arena TOKYO-BAY2024年05月開業10,652席
長崎ハピネスアリーナ2024年10月開業5,813席
名古屋DIGアリーナ2025年07月開業15,000席
A東京TOYOTA ARENA TOKYO2025年10月開業10,000席

⚠️ 長崎のハピネスアリーナだけ、季の途中(2024年10月)に開いている。 開業季の数字は、半分が前のアリーナのものになる。

6クラブが、きれいに2倍前後で揃った

開業前の季を100として、入場料収入の動きを前後2季分並べる。開業季に、どの線も一段跳ね上がる。しかも跳ね幅が似ている。

図1入場料収入の推移(開業前の季=100)

横軸は開業季からの距離で、0が開業季。縦軸は開業前の季を100としたときの入場料収入。 0のところで線が揃って折れ曲がることを見てほしい。線にマウスを乗せると実額が出る。

100200300400開業季琉球 378群馬 400佐賀 362千葉J 316長崎 422名古屋D 105A東京 181-2-10+1+2縦軸:入場料収入(開業前の季=100)横軸:開業季からの季数
指標入場料収入 — クラブが1シーズンに得たチケット販売による収入。開業の前の季を100とした指数
対象開業季の前2季から後2季まで
備考
  • 破線は名古屋ダイヤモンドドルフィンズ。1つだけ跳ねていない(後の節で扱う)
  • アルバルク東京は季の途中(2025年10月3日)の開業で、ホーム30試合のうち23試合ぶん。それでも1.81倍
  • 千葉ジェッツ・長崎ヴェルカ・名古屋D・アルバルク東京は開業季が新しく、+1季以降がまだ無い
  • ⚠️ 琉球ゴールデンキングスの開業季(2021-22)は、まだ入場が制限されていた季にあたる。制限が無ければもっと伸びた可能性がある

リーグ全体も伸びている。差し引くといくらか

⚠️ ここで止めると間違える。この10年はリーグ全体が伸びているので、 「アリーナを建てたら増えた」をそのまま効果とは呼べない。同じ季に、ほかのクラブがどれだけ増えたかを並べる必要がある。

図2開業季の入場料収入の伸びと、同じ季のリーグ中央値(倍)

濃い棒が開業クラブ、薄い棒が同じ季のリーグ中央値(開業クラブを除く)。 2本の差が、開業で説明できる分の近似になる。

琉球沖縄アリーナ・2021-22差し引き 1.71倍
2.44倍
1.43倍
群馬オープンハウスアリーナ太田・2023-24差し引き 1.6倍
2.29倍
1.43倍
佐賀SAGAアリーナ・2023-24差し引き 1.99倍
2.85倍
1.43倍
千葉JLaLa arena TOKYO-BAY・2024-25差し引き 1.98倍
2.44倍
1.23倍
長崎ハピネスアリーナ・2024-25差し引き 2.12倍
2.61倍
1.23倍
名古屋DIGアリーナ・2025-26差し引き 0.93倍
1.05倍
1.13倍
A東京TOYOTA ARENA TOKYO・2025-26差し引き 1.6倍
1.81倍
1.13倍
指標伸び — 開業季の入場料収入 ÷ その前の季の入場料収入(倍)。リーグ中央値は、同じ2季の両方に決算がある全クラブ(開業した6クラブを除く)の中央値
対象各クラブの開業季とその前の季
備考
  • 中央値の母数は季によって30〜49クラブ。B1とB2の両方を含む
  • ⚠️ 差し引きは割り算による近似で、統計的な効果の推定ではない。同じ季に起きた昇格や値上げを分けていない

差し引くと1.6倍から2.12倍。 リーグが伸びている分を除いても、開業した季に入場料がおよそ倍になるという形は残る。 営業収入のほうでも1.26倍〜2.55倍で、 入場料だけでなくアリーナ事業の収入も「その他」に入ってくる。

ここまでなら、話は単純だ。アリーナを建てれば入場料が倍になる。ところが、7つのうち1つだけが揃わない。 そこから、まったく別の話が出てくる。

ところが、1つだけ増えなかった

揃わないのが1つある。名古屋ダイヤモンドドルフィンズはIGアリーナ(15,000席)へ移ったのに、 入場料収入は1.05倍。 同じ季のリーグ中央値1.13倍を下回っている。

ところが入場者数は増えている。平均5,353名から10,281名へ、192.1%。リーグ全体で1位の数字だ。人は倍来ているのに、決算の入場料収入は動いていない。

答えは、前の節の分類にある。名古屋Dは、このアリーナを運営していない。IGアリーナは愛知県の施設で、運営は株式会社愛知国際アリーナ。 NTTドコモを代表企業とする事業者が、2025年4月から30年のコンセッションで担っている。名古屋Dは借りる側だ。

借りる側であれば、席が増えて人が来ても、 その収入がどこまでクラブに入るかは契約で決まる。 飲食も物販の売り場も、運営側の取り分になっている可能性がある。入場者が倍になったのに入場料が動かないのは、 そういう形なら説明がつく。

⚠️ ただし契約の中身は公表されていないので、確かめられていない。もう1つの可能性として決算期のずれもある。名古屋Dの運営会社は3月決算で、 リーグも「決算期間とシーズンが同じでないクラブ」に挙げている。 ただし同じ季にアリーナを開いたA東京は、 同じく決算期がずれるクラブなのに数字が跳ねている。ずれだけでは説明しきれない。はっきりするのは次の決算になる。

ここで出てきた「運営しているかどうか」は、 この1クラブだけの話ではなかった。7つを運営主体で並べ直すと、決算の見え方が4通りに分かれる。

入場料は誰でも増える。「その他」は、運営している人だけ増える

ここまでは入場料の話だった。アリーナがクラブの決算にどう現れるかは、もう1つ別の層がある。誰がその建物を運営しているか、だ。7つを調べると4通りに分かれた。

同じ法人が運営する1件
アリーナ事業の売上が、そのままクラブの決算に入る
A東京(TOYOTA ARENA TOKYO)— 運営はトヨタアルバルク東京株式会社。クラブの運営会社そのもの
同じグループの別会社が運営する2件
クラブの決算には入らない。グループ全体では取れている
千葉J(LaLa arena TOKYO-BAY)— 運営は株式会社TOKYO-BAYアリーナマネジメント(三井不動産とMIXIの出資)。千葉ジェッツのオーナーもMIXI
長崎(ハピネスアリーナ)— 長崎スタジアムシティ内。運営はジャパネットHD子会社の株式会社リージョナルクリエーション長崎
別法人が運営する2件
同上。リーグも「含まれない事がある」と注記している
琉球(沖縄アリーナ)— リーグが「アリーナ事業を別法人で行うクラブ」に名前を挙げている
群馬(オープンハウスアリーナ太田)— リーグが「アリーナ事業を別法人で行うクラブ」に名前を挙げている
借りる(公設など)2件
施設も運営も他者。クラブは使用する側になる
佐賀(SAGAアリーナ)— 佐賀県の施設。指定管理者は特別目的会社「SAGAサンシャインフォレスト」
名古屋D(IGアリーナ)— 愛知県の施設。運営は株式会社愛知国際アリーナ(NTTドコモ代表、2025年4月から30年のコンセッション)

図3開業した季の、入場料と「その他」の伸び(倍)

左が入場料、右が「その他」。入場料は運営形態に関係なく増えるのに、「その他」は同じ法人で運営している1件だけが跳ねている。この違いが、クラブ同士の売上を並べるときに効いてくる。

琉球2.44倍1.8倍
群馬2.29倍1.3倍
佐賀2.85倍4.0倍
千葉J2.44倍1.7倍
長崎2.61倍0.4倍
名古屋D1.05倍1.0倍
A東京1.81倍38倍
棒は4倍で頭打ちにしてある(アルバルク東京の37.8倍は入りきらないため)
指標伸び — 開業季の金額 ÷ その前の季の金額(倍)。「その他」は入場料・スポンサー・物販・ユース・配分金のいずれにも入らない収入
対象各クラブの開業季とその前の季
備考
  • ⚠️ リーグは「その他」の中身を開示していない。アリーナ事業だと断定はできない
  • 別法人・同グループ・借りるの3つは、アリーナの売上がクラブの決算に入らない。「増えていない」のではなく「見えていない」
  • 運営主体は一次情報で確認した。推測で埋めていない

⚠️ 読み違えやすいところを書いておく。「その他」が増えていないクラブは、アリーナで稼げていないのではない。 決算のこの表に入っていないだけだ。琉球ゴールデンキングスも群馬クレインサンダーズも、アリーナ事業は別の会社にある。 千葉ジェッツと長崎ヴェルカは、同じグループの会社が運営している。クラブ同士の売上を並べるときは、どこまでが入った数字なのかを先に見ないと噛み合わない。

では、その「同じ法人で運営する」とは、額としてどういうことなのか。1件しかない例を、もう一段ほどいてみる。

23試合しかないのに、47.8億円が積まれた

A東京の数字を、もう一段ほどく。 TOYOTA ARENA TOKYO が開いたのは2025年10月3日。 この季の決算は2026年3月末で締まるので、アリーナが動いていたのは約6か月、179日しかない。

そのあいだにA東京がホームで戦ったリーグ戦は23試合。 「その他」はこの期間に1.3億円から49.1億円へ、47.8億円増えた。 試合だけで説明しようとすると、1試合あたり2億円になる。 チケットも物販も別の科目に立っているのに、である。

つまり残りの156日で稼いでいる。コンサート、イベント、展示、テナント、命名権。 アリーナは、バスケットボールの日程とは別の暦で動く事業になっている。

裏づけがもう1つある。A東京は決算期を変えていて、 リーグの資料にその移行期間の数字が出ている。2026年4月1日から6月末までの3か月で、売上高22.7億円。年に直すと90.8億円で、アリーナが半年しか動いていない今季の通期92.4億円と、ほぼ同じ速さだ。

アルバルク東京の売上のペース
アリーナが無かった季(2024-25・通期)36.3億円四半期あたり 9.1億円
アリーナが半年動いた季(2025-26・通期)92.4億円四半期あたり 23.1億円
決算期変更の移行期間(2026年4〜6月)22.7億円年に直すと 90.8億円
指標売上高(億円)。移行期間はリーグの注記にある2026年4月1日から6月末までの3か月の数値
対象2024-25 〜 2026年6月
備考
  • ⚠️ 4月と5月にはリーグ戦とチャンピオンシップがある(2025-26の最終戦は2026年5月30日)。3か月まるごとオフシーズンではない
  • ⚠️ 年換算は3か月を4倍しただけの目安。季節の偏りは考えていない
  • アルバルク東京は決算期変更を行い、2026年度決算より6月決算になる(リーグの注記)

⚠️ 4月と5月にはまだ試合がある(この季の最終戦は2026年5月30日)ので、 この3か月を「オフシーズン」とは呼べない。 それでもペースが落ちていないことは言える。 クラブにとっての意味は大きい。これまで収入はシーズンの長さに縛られていたが、 建物を持って自分で回せば、その縛りが外れる。

筆者の見立て — 増えたのは席ではなく、席の種類と稼働日

ここからは見立てになる。入場料が倍になった理由を「席が増えたから」だけで説明すると、 数字が合わない。席数は倍までは増えていないクラブが多い。

新しいアリーナが持ち込むのは、席の数より席の種類だろう。 スイート、ラウンジ、テーブル付き、コートサイド。 同じ1人でも払う額が変わる。 リーグの入場者単価が10年で2.5倍になったことと、向きが合っている。

もう1つ。開業の翌季も、たいてい伸びが続いている。図1で+1季の点が下がっていない。 一度来た人が戻ってきているのか、単価をさらに上げたのか、 このデータでは分けられない。

確かめられていないこと

  • ⚠️ 6クラブしかない。統計的な推定ではなく、6つの事例を同じ物差しに乗せて並べたもの
  • ⚠️ 同じ季に起きた別のことを分けていない。昇格、値上げ、強化、スポンサーの獲得が重なっていれば、その分も入る
  • ⚠️ 琉球ゴールデンキングスの開業季は入場制限のあった季にあたる。制限が無ければもっと伸びた可能性がある
  • ⚠️ 長崎ヴェルカは季の途中に開業していて、開業季の半分は前のアリーナのもの
  • ⚠️ 名古屋Dの決算対象期間は公表されていない。「決算期のずれ」は推測で、確かめていない
  • アリーナの建設費や賃借料を見ていない。収入が倍でも、採算が合っているかは別の話
  • 決算期がシーズンと一致しないクラブがある(A東京・東京SR・川崎・三河・FE名古屋・名古屋D・大阪・島根・長崎)。人件費と戦績の期間は厳密には揃っていない
  • 人件費はトップチームぶんのみ。スクールやアリーナを別法人で運営しているクラブは、その分が入らない
  • 物販収入と原価は、クラブごとに販売方法と会計処理が違うため単純比較できない(リーグの注記)
  • 「その他」にはアリーナ事業などの収入が入る。リーグはこれを「夢のアリーナ効果による増加」として、伸びた要因に数えている
  • 表示項目はリーグの統一様式で、クラブの決算書の勘定科目とは異なることがある。端数調整で合計が一致しない箇所がある(リーグの注記)

次に見るなら、どこか

新しいアリーナに行ったら、自分の席のまわりに何種類の席があるかを数えてほしい。テーブルの有無、ソファ、立ち見、ラウンジへの入口。 入場料が倍になった理由は、たぶんその数のほうにある。

Bプレミアの席の基準は 「席の壁」、 10年の収入の構成は こちらの記事、 クラブごとの数字は 財務データ にある。

出典:B.LEAGUE クラブ決算概要(2016-17〜2025-26シーズンの各季)/同 発表資料(2025-26シーズン)/B.LEAGUE マーケティングレポート 2025-26シーズン(入場者数)/アリーナの開業時期は各施設・自治体の公表による。